さらば財務省!官僚すべてを敵にした男の告白
何とも仰々しい売れ筋ねらいのタイトルだが、中身はそれほど扇情的でもない。小泉構造改革の実務をとりしきった元財務官僚・高橋洋一氏の回想である。まさに政権中枢にいた人間にしか分からない内幕を知ることができ非常におもしろかった。自民党を否定的に見ていた人には(私がまさにそうだが)、構造改革派といわれた小泉、安倍元首相や竹中・元総務相、とりわけ中川秀直・元幹事長への印象ががらりと変わるだろう。記者クラブべったりのマスコミ取材からは見えない、貴重な情報が満載である。
この本では構造改革派の自民党幹部を少し好意的に描き過ぎだとは思うが、実際に霞ヶ関から追い出された著者がそれほど事実をねじ曲げて書いているとも思えない。何となく安倍辞任劇に抱いていた私の違和感もこの本でかなりすっきりした。安倍氏は少し青臭いところはあるが、人の意見を素直に受け入れ正義感もあったようだ。特殊法人改革、公務員制度改革に関しては、渡辺喜美氏を起用して本気でやろうと考えていたらしい。
著者は福田和也の「幼稚とは何がいちばん大事かわからないことをいう」という言葉を引き合いに、財務官僚は個人的には優秀だが組織としてはまことに幼稚な集団だと言う。著者は東大数学科と経済学科を出た理論派で、法学部卒ばかりで経済がまるで分かっていない連中の行動が、いかに非論理で視野が狭いかということを、実例を数々挙げ指摘する。確かに財政の官庁を、なぜ法卒が牛耳ってきたのか不可解ではある。単に偏差値がその理由だとしたら、愚かなことだ。
高橋氏は昨年、霞ヶ関がひた隠しにしてきた埋蔵金を暴いたことでも有名である。特別会計の超過積立金をキャッシュフロー分析した著者は、その総額が50兆円にのぼることを明らかにした。こうした剰余金の存在がばれると、自民党の元官僚やそのシンパからなる「財政タカ派」は増税がしにくくなるので困る。財務省からは実名をあげて「3回殺しても殺し足りない」「死刑でも済まない大犯罪者」とまで言われたらしい。
統計分析だけではなく、プログラミングにも詳しい著者は、リスク管理の手法や財投債なども持たず、どんぶり勘定で金融業務を行っている大蔵省の内情に驚き、民間では当たり前のALM(資産・負債の総合管理)といったシステムを自作する。こうしたリスク管理をほとんどしないまま、何百兆円という巨額の財政を何となく運用していたという事実に、金融の専門家も唖然としたという。著者は今の財務官僚などエリートでも何でもないと喝破する。
日本の金融機関は、「変動利付国債」という爆弾を抱えているという事実もこの本で明らかにされている。大蔵省がよく説明しないまま金融機関に売ったその欠陥商品を50兆円は抱えていて、その含み損は5兆円近いとも著者は指摘する。一般の金融機関が持つには、金利リスクが大きすぎ、こういう特殊な商品を売った財務省の罪は重いという。この辺りも中にいた者にしか分からない重要な情報だ。
著者は何となくなりゆきで役人にはなったが、数理統計学という専門をもっているため、組織に媚びるところが全く無く、嫌になればいつでも辞められると考えていた。そんな彼が中心となって行政改革の参謀となっていく伏線は、25年前に日本開発銀行から大蔵省の財政金融研究所に出向してきた竹中平蔵氏(当時31歳)と出会うところから始まる。この二人の異分子が後々、財務省はおろか霞ヶ関そのものを破壊しかねない爆弾に育っていくとは、当時誰も予期しなかった。
竹中氏は、民間出向者(しかも彼は東大ではなく一橋)を見下す東大法卒のキャリアに歯がみしながらも、歌って踊るのが好きな、明るく気さくな勉強家だった。著者は竹中氏のエコノミストとしてのセンスに引き込まれ、長いつきあいを重ねていく。20年以上たって、小泉首相が財政・金融政策をその竹中氏に一任し、その手足となって著者が動いて結果的に郵政民営化に至る道筋は、NHKのプロジェクトXにすれば、3時間ほどの特番になるかというエキサイティングなドキュメントだった。
竹中氏が「なぜ私を選んだのか」と小泉氏に聞いて「いや、それはカンだよ」と答えたという。小泉氏に渡す書類はA4用紙1枚までなのだという。要点だけを、かなり大きい字で書いたものでないと読んでくれない。それも口で言ってあげないといけないそうだ。面白いのは郵政解散の後の第三次小泉内閣だ。これまで重用してきた竹中氏をあっさりと総務省にコンバートし、抵抗勢力の与謝野氏を経済財政政策担当大臣にすえる。これで著者の高橋氏は完全にはしごを外され、散々な目にあう。まさに小泉流の真骨頂だ。
改革の矢面に竹中氏を利用して、ちゃっかり裏では飯島秘書官を使い財務省とのパイプもつなぐ。このバランス感覚で、郵政民営化など手を組めるものに関しては、財務省と連携して改革を進める。二元コントロールでバランスを撮りながら、メディアも巧みに操り、突然の衆院解散でだれも予測できなかった奇跡の大勝利を収める。まるで天才戦国武将のような、冷徹かつ大胆な行動にある意味感心する。この本を読んで初めて小泉純一郎の凄みを感じた。
著者が中心になって政策を作ったのが、「経済成長なくして財政再建なし」をスローガンとする「上げ潮派」だった。彼らが暗闘した相手は、まず増税ありきの財政再建を目指す「財政タカ派」。彼らは大きな政府を志向し、霞ヶ関の既得権益を政官一体となって守ろうとする。この対立はこの「大きな政府軍」と「小さな政府軍」の戦いでもあるという。この視点で今までの構造改革からの政治の流れを読み解けば、対立軸がはっきりと見えてくる。この軸で区切れば、自民、民主ともにいずれ分裂せざるを得ない。
つまりこうした本来の対立軸で政界再編が行われない限り、無用な混乱がこれからまたしばらく続くのだろう。高橋氏ら上げ潮派の主張とは、まず第一に「デフレ脱却」第二に「政府資産の圧縮」第三に「歳出削減」(※この2と3は特に激しい抵抗があるだろう)第四「公務員などの制度改革」、それでもだめなら第五に「増税」だという。実にすっきりした当たり前の理論ではないか。
だが今の福田内閣をみれば日本が根本的に変わるにはこの混乱期がまだまだ続きそうだと思い、少しげんなりする。とはいえこの本は素人にも分かるように平易な言葉で読みやすく書かれており、いまの政治の状況がよく分かった。
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Comments
良くまとめてくれました。
ただ、読後感として彼も結局官僚の一人で限界を抱えていると思いました、小泉政権が自民党という枠の中で最大限頑張ってくれたのですが、そのことが結果的に日本の構造改革を遅らせることになるという危惧に変わりはありません、今日テレ東WBSで国家公務員が国土交通省・農水省などが中心だと思うのですが、かなり人たちが地方の部局で働いていると言っていました、彼らを道州制の基にすべて地方に異動させ、局長以上の役職を政治任用(ポリティカル・アポインティー)にしない限り、日本は良くなりません、その道程を小泉政権が遅らせたとするなら悲劇です。
Posted by: マルセル | April 04, 2008 at 12:21 AM
TBありがとうございました。高橋氏の孤軍奮闘ぶりを知ると、本当に政策スタッフというのは人材不足なんだなあと思います。日本にも優秀な人間がいくらでもいるはずだから、育てることができてないんでしょうね。育てる気もないのかな?
優秀な若者にとっては、公務員にはならずに、外資系金融やコンサルに勤めて外圧によって日本社会を開国させることの方が、どうも手っ取り早い改革だと思われている節もありますね。
Posted by: hakohugu | April 04, 2008 at 05:00 PM